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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)272号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(要旨)

売買契約条項中の「本契約に違反したるときは、売主は手附金の内金二万円の倍額四万円を償還し、買主は右手附金を放棄するものとす。この場合において、本契約は当然解除せられたるものとす。」との文言を、違約罰として手附金一部の倍返し及び沒收を規定すると共に、相手方違約の場合の解除権を留保したもので、契約違反者の好むところに従い何時でも右手附金一部の倍返し又は放棄により契約の解除を爲し得る趣旨のものではない、と認めても、かゝる認定を以て、経驗則違反の違法ありとなすことはできない。

(説明)

一 本件の事実関係は、少しゴタゴタしているが、要約すれば次の如くである。

(一)被上告人(原告)の事実上の主張は、上告人(被告)はさきにその所有の本件建物を訴外甲に売渡したが、甲はこれを訴外乙に、乙は更にこれを被上告人に売渡し、被上告人はその所有権を取得した。しかして乙と被上告人との間の売買契約の内容は、代金一六万円、手附金五万円とし、内金二万円を当日支拂い、残代金(手附金殘を含む)はその後数回に分け一定期日にこれを支拂い、最終の割賦金の支拂と同時に被上告人名義に所有権移転登記手続をする、というので つて、被上告人は右約旨に從ひ、順次割賦金を支拂い、最終の割賦金を期日に提供したところ、乙はその受領を拒んだので、これを供託してその旨乙に通知した。なお上告人と甲、甲と乙との間の売買においても、所有権移転登記手続は各代金完済の時になすべき約旨であり、右各代金はそれぞれ完済された。従つて、上告人は甲に対し、甲は乙に対しまた乙は被上告人に対し、それぞれ本件建物の所有権移転登記手続を爲すべき義務がある。右の次第であるから、被上告人は、乙及び甲の各登記請求権を代位行使し、上告人に対し、直接被上告人に本件建物の所有権移転登記手続を求める、というにあつた。

(二)上告人は抗弁して曰く、被上告人と乙との売買契約は、すでに適法に解除された。すなわち、右両者間の契約当時、本件建物は訴外丙が乙から賃借居住中で、乙は同人を一定期間内に立退かせた上これを被上告人に引渡す約旨であつたのだが、当時の情況から、果して丙を期間内に立退かせることができるかどうか危ぶまれたたため、もし立退かせることができなかつたときは、乙は、被上告人が契約の履行に着手した後であると否とを問わず、手附金二万円の倍額四万円を償還して契約を解除し得ることゝする趣旨の下に、要旨欄掲記のような(すなわち「 」内の部分)文言の契約条項を定めたのであつた。果せるかな丙は乙の再三の交渉にもかゝわらず遂に明渡を肯じなかつたので、乙は右條項に従い、所定の金四万円を被上告人に提供し、契約解除の意思を表示し、ために売買契約は適法に解除され、被上告人は本件建物の所有権を取得せざりしことに帰したのである、と。

二 原審は、(一)の被上告人の主張事実を全部認め、(二)の上告人の抗弁事実中、丙を立退かせた上で建物を引渡す約旨であつた事実、及び上告人主張のような文言の契約條項が存した事実はこれを認めたが、右文言は要旨欄掲記のような趣旨(正確にいえば、「違約罰として手附金一部の云々」以下「解除を爲し得る趣旨のものではない」までの部分)と認定し、上告人の抗弁を排斥し、被上告人の請求を認容した。

三 上告理由は、もつばら前記契約 言に関して原審における主張をくり返し、原判決には審理不盡理由不備又は理由そごの違法ありと爭つたのであるが、最高裁判所は、右論旨を以て、結局前記契約条項に関する原審の認定が経驗則に違反するとの趣旨に主眼をおくものと認め、「原判決の所論約款の解釈に関する判断は正当であつて、所論のような経驗則違反等の違法のあることはみとめられない。」と判示し、上告を棄却した。

四 なお附言しなければならない問題がある。すなわち、被上告人の本訴請求は、乙が甲に代位して上告人に対し行使し得べき登記請求権を、被上告人が更に代位行使し、上告人に対し登記手続を求めたものであつて、かゝる「代位の代位」が認めらるべきことは問題ないとしても、上告人から甲名義にではなくて、直接被上告人名義に所有権移転登記手続を求めた点はいかゞなものであろうか。こゝに詳論することは本稿の目的ではないから結論だけをいえば、かゝる請求は、民法第四二三条の解釈(同條は代位權者をして直接にその債權の滿足を得しめることを目的とするものでないことは、學説判例のひとしく認めるところであるのみならず、近時同條の適用範圍を制限すべしとする學説も有力に主張されつゝある)からも、また不動産登記制度の建前(特に中間省略登記に對する判例通説の制限的態度を想起せよ)からも、とうてい許さるべきではあるまい。然るに原審も第一審も共にこの点は全く問題とせず、被上告人の請求をそのまゝ認容し、上告理由亦何らこれに触れるところはなかつた。

最高裁判所においても、かゝる事項は実体法規の解釈適用の問題として、職権を以て調査し、原判決を破棄することも可能ではなかつたかと思われるのだが、判決は前記の通り上告を棄却したため、結果において被上告人の請求は理由あることに確定し、登記簿上も、関係当事者の合意なき事案であるにかゝわらず実際上中間省略の登記が実現されることゝなつた。(以上 靑山調査官)

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